歯磨きのゴール

予防コラム

スウェーデンのクリニックにいた頃、毎年夏頃になると日本の業者主催で日本人の歯科衛生士向けの研修会が開かれていた。最近ではもうスウェーデン人のスタッフたちは慣れっこになったが、最初は昼休みになると日本人参加者達がいっせいに歯を磨き始める光景にびっくりしていた。ちなみに人前で堂々をブラッシングする習慣は、現地にはない。

ところで、歯磨きは歯ブラシだけで十分なのであろうか?
歯科界で発表された数々の文献は、歯ブラシだけを使用しても100%の清掃は困難であると述べている。

歯間ブラシやフロスなどの補助的器具を使ったらどうだろうか?
これでも無理。歯ブラシだけよりはちょっとはマシな程度だ。

じゃあ、マウスリンスをさらに使ったら?
これならば、歯間ブラシやフロスを使ったほうがマシな結果が出ている。いろいろな研究でもプラークをゼロにする方法はない。ではどうしたら良いのだろう?????

理想的なブラッシング方法はですねえ、と話しを進める前に、素朴な疑問・・・・はたしてプラークって口の中から全部取らなければまずいんだろうか?

プラークは虫歯の大きな原因の一つだし、歯周病の発生には欠かせない重要な役割を果たしている。歯のどの表面にも付着可能であるが、頬粘膜や舌の動き、また大人になると歯の表面の溝が磨り減ってくるため、実際には歯と歯ぐきの境目、そして歯と歯の間が危険ゾーンになってくる。

歯の周りを100%プラークフリーを期待することは現実的でない(もしかしたら出来るひとがいるかも?)。  

スウェーデンでの調査であるが歯周病の患者さんのうち、定期健診を受け、予防処置を行って、長期にわたりよい状態の患者さんを追跡調査した研究がある。患者さんの清掃レベルをみると、3ヶ月毎の定期健診と予防処置を受けて、大体80%位掃除が出来ていればいい状態を保てていると示唆された。

別の観点から見ると、すべての歯の周りにプラークが付いていた状態を100%として、そのような患者さんは20%くらいは磨き残しがあるということだ。

ただこれを読んで、8割磨けばいいんだな!と勘違いしてしまう人が必ずいるので、あえて書いておくが、8割磨ける人というのは我々の患者さんの中でも相当熱心に磨く人で、しかもこれはあくまで、すべての患者さんの「平均値」である。

実際に読者の皆さんがどのくらいの清掃レベルでOKなのかは、それぞれ違う。100%近くきれいにしないといけない人もいるし、少々汚くともビクともしない人もいる。

要は、個人によってカリエスや歯周病に対してのなりやすさが違うためだ。

このなり易さを専門用語で「感受性」という。この感受性というのは、一生涯にわたり歯周病もカリエスも様々な因子に左右され続けるので、「とりあえず今のままでの問題なかった」とはコメントできても、それが将来どうなるかは判らない。

だから僕たちは患者さんに「なるべく清潔な状態にしてください」というほかない。清潔にする分にはデメリットはないからだ。

口の中を清潔にする習慣を患者さんに理解して、行動してもらい、かつそれを維持してもらうのは、なかなか難しい。カリエスや歯周病が「生活習慣病」であるというのも、病態は別にして的外れでもない。

歯を削ったり、抜いたりする外科医的な素養と、患者さんの生活にまで踏み込まなければいけない内科医としての能力が要求されると言われるのを理解していただけるだろうか?

歯科コラム一覧