歯周病になりやすい人

歯周病コラム

歯周病のなりやすさ(感受性について)

病気のなりやすさを「感受性(susceptibility)」という。かつては一旦発症すると放置すれば皆、その段階を経て必ず悪化すると考えていた。

スウェーデンのヒューゴソン博士らのグループは、1970年代から約20年間、同じ地域に住む住民の歯周病のデータを連続的に調査した。

面白いことに、83年から93年までの10年間で進行度が「中等度」の患者さんの割合が減り、その分、「健康―軽度」の人の割合が増えてきた。しかし「重症」の患者さんの割合(約13%)は変化せず、傾向として「重症」と「軽症」の二極化が進んだ(図)。これは何を意味するのであろう?

また、一般的に歯周病、とくに「歯周炎」は50歳以降に問題になると言われているが、10代や20代の若い患者さんにも出会う。なぜ若いうちに歯周病が進行してしまうのであろうか?

皆さんは今回是非、「歯周病にも感受性の高い人がいる」という事実を知っていただきたい。「感受性」は何によって左右されるのであろう?

1991年代にアメリカ・ミネソタ州立大学のグループから発表された研究は、63組の一卵性双生児と33組の2卵生双生児の歯周病関連のデータを比較したところ、一卵性双生児のグループの方がより双子間の相関が強かった。またなんらかの事情で別々の環境で育った双子では各種のデータの遺伝率が38%から83%ととても関係が強かった。つまり、歯周病の発症や進行には「遺伝」が関与する可能性が示されたのだ。

また近年では「歯周医学(Periodontal medicine)」と呼ばれる、全身疾患と歯周病学の関係にスポットを当てた分野も注目されつつある。歯周病の感受性を高めるものとして、喫煙や糖尿病などが挙げられる。これは次回以降この連載で扱う。

先天的なものや全身的な要素が関与するとなると、歯科医院だけではその治療や予防に限界があると考えがちだが、では我々や皆さんはどうやって対処していけばいいのであろう?前回も述べたが、歯周病の原因はあくまで細菌性の「プラーク」であり、それなしでは発症も進行もしない。

なのでこれまでどおり、進行した部位(歯周ポケットという)に入り込んだプラーク(歯肉縁下プラークという)を除去し、歯と歯ぐきの間にプラークが溜まることを防いでいけば、ごく一部の例外を除き、治癒していく。定期的なケアを怠らなければ問題ないことは、これまでの臨床研究で証明されており、今回述べた「歯周病の感受性」はあくまで「原因」が存在した上で、問題となるのである。

治療方法自体になんら特別なことはないのだ。

さて、以上のような感受性の高い患者さんへの治療が成功したとする。歯は保存されるわけであるが、同時に再発・進行のリスクも残ることになる(歯がなければ歯周病にはならないから)。

当然、保存された歯は、やはり普通の患者さんより再発のリスクが高いと考えられる。よって、治療後の定期受診もより厳密に、そして間隔も短めにするなどは必要である。

(週刊金曜日2006 大野純一著「歯生活を楽しくする歯科講座」より一部改変)

参考文献
Hugoson & Laurell: The impact of epidemiological data on periodontal treatment strategies. Journal de paradontologie & d’implantologie orale vol19.(2000)。
MIchalowicz et al: Periodontal findings in adult twins. Journal of Periodontology 62, 293-299(1991)
Lindhe(eds): Clinical Periodontology and Implant Dentistry (Blackwell Munksguuard 2003)

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