歯周病とタバコ

歯周病コラム

僕のクリニックにお越しになる患者さんのうち、重症の歯周病の患者さんの多くの割合が「スモーカー」または「元・スモーカー」だ。

喫煙者や喫煙経験者の患者さんは歯周炎が重症化しやすい。タバコが歯周病に悪影響を与える理由はいくつかある。

歯周病は微生物の塊であるプラーク(歯垢)による「感染症」としての特徴をもつ。感染症とは微生物と免疫反応のバランスが崩れて成立するが、タバコはその両方に作用する。

喫煙者は口の清潔度が、そうでない患者さんに比べて劣る傾向がある。つまりプラークの量が非喫煙者にくらべて多い。

さらにより多くの種類の歯周病に関連細菌が生息しているという。また、免疫反応への影響としては、歯肉(はぐき)の血管の少なくなり、細菌が進入してきた際に戦う一連の免疫細胞の働きが鈍くしたり、異常をきたしたり等々、「免疫システム」に悪影響を及ぼす。一日20本以上吸う人の進行のリスクは約5倍以上といわれている。また治療に際しても、治療結果は非喫煙者に比べて思わしくない。

では禁煙を実行したとして、どのくらいで非喫煙者と同じ状態に戻るのか?に関しては専門家間でも完全な一致はみていないが、アメリカのデータを参考にすると、11年以上と考えられる。

歯周病を悪化させる全身疾患の代表としては「糖尿病」が挙げられる。ご存知の方も多いと思うが、糖尿病には若年者や小児に好発する「1型糖尿病」と、中年期以降に発症する「2型糖尿病」がある。そのどちらも歯周病の進行の危険性が高い。

その原因はまだ研究途中であるが、細菌叢への影響、歯の周りの組織(歯周組織)の循環障害による「傷の治りの悪さ」、コラーゲンの代謝障害、歯根膜繊維芽細胞の機能低下による「修復機能の障害」などが考えられている。

ただ、歯周病治療に際しては、血糖のコントロールがよければ全く問題にはならないが、不良な患者さんにおいては残念ながら治療結果は劣り、根本的な治療ができないことが間々ある。

ホルモンの変化が歯周病に影響することも知られている。特に、思春期、月経、妊娠、そして更年期とそれに伴う骨粗鬆症などで報告されている。

思春期、月経、そして妊娠に伴うホルモンの変化は、おもに歯肉の炎症に影響を与える。同じプラークのレベルであっても、炎症がより強くなる。

更年期中では、卵巣機能の低下により、ホルモンレベルが減少し、骨粗鬆症の頻度が高くなる。骨粗鬆症の治療薬である、エストロゲンの使用者は非使用者に比べて歯の喪失が36%低いとの報告もあるが、詳細な研究はまだこれからだ。

以上、歯周病の発症や進行に関係のあるタバコや全身疾患に関しての関係について論じてきた。覚えていて頂きたいこととして、それらはあくまで重症度に影響を与えうる「リスク」であり、けっして「原因」ではないということである。

歯周病の治療の基本は原因=プラークの除去であるので、上記のリスクが伴うからといって、治療や予防のコンセプトが変わるわけではない。

タバコと、コントロール不良な糖尿病以外であれば、我々にとってはさほど問題にならないというのが、臨床現場での実感である。

(週刊金曜日2006 大野純一著「歯生活を楽しくする歯科講座」より一部改変)

参考文献
Lindhe, Karring, Lang eds: Clinical Periodontology and Implant Dentistry (Blackwell-Munksgaard) 2003
Tomar & Asma : Smoking-attributable periodontitis in the United States: Findings from NHAANES III. J Periodontol 71: 743-751,2000
Westfelt et al. The effect of periodontal therapy in diabetes. J Clin Periodontol 23, 92-100 (1996)
Pagnini-Hill. The benefit of oestrogen replacement therapy on oral health. Archives of Internal Medicine 155, 325-329 (1995)

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