虫歯とはなんであろうか?

虫歯コラム

虫歯(カリエス)って何だろう?

多くの患者さんばかりか、いまだに歯科医師や歯科衛生士も「虫歯」を誤解している。
虫歯=歯に開いた穴、と考えるのは間違いだ。

歯科関係者は虫歯のことを「カリエス」と呼ぶ。英語の「Dental Caries」を略している。以下にカリエス=歯に開いた穴である、という誤解を解いてみたい。

ではそもそもカリエスってなんだろうか?
なぜ発症するのか?

カリエスは一つの原因だけでは決して発症せず、最低限三つの悪条件が重なって成立すると考えられている。
一つは「細菌叢」、
二つ目は「食事」、
そして最後は「宿主と歯」つまり唾液や歯などの生体側の条件だ。

これに「時間」を加える人もいる。三つの要素が「一瞬」成立しただけではカリエスとして成立しないと考えるからだ。

細菌

人間の口の中では現在、数百種類の細菌が同定されている。ほとんどは「常在細菌叢」といって、普段は何も悪さはしない。歯の表面にはこれら由来の細菌の固まりができ、それらは「歯垢」とか「(デンタル)プラーク」と呼ばれる。また最近ではこのプラークのことを「バイオフィルム」と呼ぶことが多いが、どちらにしても細菌の塊である。

食事

発酵性の炭水化物(糖類など)が口から摂取されると、瞬く間にこのプラークが変化する。プラークの中のある種の細菌が炭水化物に反応して酸を産生―プラーク全体のpHが低下する。プラークの下の歯の表面は高度に石灰化されているので、強い酸に接すると、ミネラルのイオンが反応し歯は一層溶け始める。「脱灰」と呼ばれる現象だ。

食事の度に歯はどんどん溶けていくかというと、そうでもない。溶けた表面は、やがて唾液の中のカルシウムイオンやリンのイオンなどがカバーしてくれる。これは「再石灰化」と呼ばれる。

歯の表面って一見ムスッとしたなんの変哲もない無愛想な硬い表面だけど、実は一日に何度も脱灰と再石灰化を繰り返す、なかなかダイナミックな部分なのだ。

口の清掃が不十分でプラークだらけであったり、食事のパターンが乱れると、この脱灰と再石灰化のバランスが崩れる。すると再石灰化が追いつかなくなり最初に歯の表面に白い点(白斑という)が形成される。放置しておくとやがて歯の表面構造が崩れて、いわゆる「穴」が開く。穴は専門用語では「齲窩(うか)」という。

歯科医院での「虫歯の治療」は、この齲窩の中の感染した部分を除去し、齲窩の形を整え、やがて詰め物をする。

この治療は「充填」と呼ばれる。咬み合わせに影響するほどのあまりに大きな齲窩であると、今度は冠(クラウン)をかぶせることが必要になってくる。

病気の治療の基本は「原因の除去」だ。しかしこれまで歯科では虫歯(カリエス)の治療といえば「削って詰める」ことを意味してきた。大学の教育現場でもこの表現はいまだに使われている。

ところが削って詰めても、カリエスの原因である口の中の細菌が減るわけでもないし、食事のパターンが改善されるわけでもない。

星の王子様の作者サン・テグジュペリは「本当に大切なことは目に見えないことなんだよ」と書いていた。眼で見える「齲窩」に、歯科医が充填することだけで問題が解決すればいいのだが、カリエスの原因は齲窩ではなく「口の中の環境」である。

まず口の中の環境を改善しなければ、本当の虫歯の治療とはなりえないのだ。

(週刊金曜日2006 大野純一著「歯生活を楽しくする歯科講座」より一部改変)

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