インプラントコラム
インプラント治療(人工歯根治療)について患者さんの関心が高いようです。インプラントは確かに、歯を失った患者さんの生活の質を、劇的に向上させうる可能性を秘めています。
普通の義歯では十分に機能の回復が果たせない方、ブリッジでは他の歯へのダメージが大きく、危険と思われるケースなどにおいては、インプラントは選択肢の一つになりえます。
ただし、これだけは覚えて於いて下さい。
インプラントはそのための、唯一絶対の方法では決してありません。
現在のタイプのインプラントは、「オッセオインテグレーション(骨結合)タイプ」といって、チタンを骨に埋め込み、癒着させることにより機能させます。
これは1960年代に、スウェーデンの解剖学者とスイスの病理学者が、ほぼ同時期に発見したとされています。以後、おもに欧州を中心にたくさんの基礎実験・臨床研究を経て、改良に改良を重ねて現在のタイプになってきました。
私の留学していたイエテボリ大学は発見者の1人、ブローネマルク教授がいたこともあり、インプラントの総本山的存在です。歯周病科の大学院生だった私は、3年間の間、半年間ほどインプラント科で研修(というより修行)をさせてもらい、幸運にも、私は1998年にここで最初の患者さんを執刀しました。
それはどうしても従来の方法ではリスクが残り、歯周病科の教授と相談して決めた治療でした。私のインプラント治療の最初の患者さんはスウェーデン人の方だったのです。(幸い、今も問題なく機能しているとのことです)。
半年間の研修中、今でもとても心に残っている言葉があります。
それが天然歯の保存に勝る治療はないんだよ、というインプラント科のL教授のことばです。
世界中から尊敬を集めているL教授は、インプラント治療の可能性を理解し、またその限界を悟った上でこうおっしゃったのでしょう。
私が歯周病科の人間だと知ると、「私も若かったら、君のように歯周病学の勉強をしてみたいよ」とまでおっしゃり、とても恐縮してしまいました。
さらに教授は言います。「インプラント治療は歯科を変えた、ということは絶対ありません。ただ治療の選択肢の一つが増えた、ということです。」
なにがその患者さんにとってベストかは、他の歯の状態、患者さんの事情、などによって選ばれるべきなのです。
そして、インプラントを考える前に、なぜ歯を失ったか?を考え、その原因を取らない限り、インプラントは限りなく危険な治療になる、ということも知って於いて下さい。
まっとうなインプラント治療は、インプラントそのものよりも、歯を失った原因を取るー歯周病の治療や、虫歯や根の治療が、メインなのです。
私の患者さんの中にもインプラント治療の恩恵に浴している患者さんが、何人もいらっしゃりますが、みな、インプラント治療の前の治療にお時間を頂いた方ばかりです。
大野歯科医院へもインプラントを希望して、お越しになる患者さんがいらっしゃいますが、もしインプラント以外にもっと安価で、安全で、より良い方法が別にあればそちらをお勧めしています。