電動歯ブラシ論

予防コラム

電動歯ブラシは魔法の歯ブラシなのであろうか。すでに電動歯ブラシは完全に手用歯ブラシを超えたであろうか?

電動歯ブラシの性能を試した研究は数多くあるが、歯周病学の国際誌にデータを発表している機種は限られており、参考までに日本ではソニッケアー(SonicareR エリート・シリーズ)とブラウン・オーラルB(BRAUN Oral-BR・プロフェッショナルケアシリーズ)が店頭で入手可能である。

両者の性能に大差はないと思うが買っても家庭できちんと使わなければ意味がない。
今回は手用歯ブラシと比べどのくらい優れているのだろうか?
良好な研究結果を実際の皆さんの日常活でも再現できるか?について考えてみる。

「Novelty Effect(ノベルティー効果)」という言葉がある。
これは実験参加者がテスト商品に対して、心理的な理由からよい結果を出すことである。

とくに電動歯ブラシの研究というのは、手用の歯ブラシと比較しているため、実験参加者もどちらがテスト商品かは一目瞭然である。新製品や使い始めの機械や器具は一生懸命使う、そんな経験は皆さんもあると思う。

そこでなるべく長期間のデータが必要なのだが、電動歯ブラシの優位性を示す研究の多くは、数週間単位での短い観察期間のものが多い。数少ない長期の研究(3~12ヶ月)を見ると、電動歯ブラシと手用歯ブラシの差はあるものの、我々の立場からは大きな差ではない。

ただこれは「平均値」での比較なので、例えば、病気や障害がある方や高齢者など、歯ブラシでシャカシャカするのが困難な方には、電動歯ブラシの意味合いは大きいと思う。実際、歯ブラシが上手く使えないパーキンソン病の患者さんにお勧めしてみたら、次の定期健診時には劇的にきれいになっており、驚いたこともある。

一方、今までの方法できちんとお手入れができている方にとっては、時間的なこと以外に余り大きな意味がないであろう。従って、電動歯ブラシは個人個人でメリットの度合いが大きく異なると思う。

ちなみに、通常の歯ブラシで磨きづらい部分-たとえば奥歯の歯と歯の間などは、電動歯ブラシでも完璧にはいかない。やはり決して魔法の道具ではないのだ。

電動歯ブラシはこれからもテクノロジーの進歩に伴い、どんどん進化をしていくであろう。その使用は、しかし、個人に委ねられる真理はこれからも不変である。

病気の予防の根幹部分は、どんなツールを使うか?ということではなく、患者さんが病気を理解し、健康に対するモチベーションを維持していくか?なのである。

(週刊金曜日2006 大野純一著「歯生活を楽しくする歯科講座」より一部改変)

歯科コラム一覧