キシリトール神話

予防コラム

キシリトール伝説を突く!

コンビニのガム売り場を覗くと、どの商品にもキシリトールの文字が躍り、カリエス(虫歯)の予防を謳っている。日本のガム会社は元気だ。宣伝手法を批判するのは簡単なんだけど、宣伝活動を通じて、日本人の消費者の関心を口の健康に導いてくれた功績はナイスだと思う。

キシリトールの効果に関してはたくさんの研究があるが、僕らみたいな臨床の現場にいる者にとって一番関心があるのは、「カリエス(虫歯)が人の口の中でどの程度抑制できるか?」「重篤な副作用があるか?」だけである。試験管の中だけの結果には興味ない。

キシリトールの名を歯科界に轟かせたきっかけは1970年代に発表されたフィンランドのトュルク市を舞台にしての臨床研究だ。詳細は省くけど、約25ヶ月間の生活の中で、一つのグループは甘味料をシュークロース(ショ糖)のみ、別のグループはフルクトース(果糖)のみ、そして第三のグループはキシリトールのみを使用してもらった。

もちろん、普通に社会生活を送るわけだから、研究期間中、実験に参加した人は嘘をついたり、「ずるっ子」することもあるだろう。本当に言われたとおりにしていたら、逆に気味悪いしそれは研究者も分りきったことであったろう。だからここでは各種の甘味料をメインに生活した、と解釈したい。

結果では、一番カリエスが発生したのが、もちろんショ糖(通常の砂糖のこと)のグループで、果糖のグループは47%の減、そしてキシリトールはなんとカリエスゼロであった。この研究をきっかけに歯科界ではブレイクしていく。

ところで、キシリトールは、甘味料の分類で言うところの「糖アルコール」(←べつに酔っ払うわけではない)に入るが、他の糖アルコールでは効果はないのであろうか?

僕の知る限り、キシリトールの研究においては他の糖アルコール類と直接の比較した研究はごくわずかだ。その中でも研究者たちによく引用されているのが、旧バルト三国の一つ、エストニアでの研究。9歳から14歳までの子供たち602人を対象に3年間観察した。

結果はキシリトールガムを噛んでいたグループは、同じ糖アルコール類のソルビトールガムのグループ、そして糖アルコールの入っていないガムと統計的有意差ナシ。

おそらく「どの糖アルコールか?」よりも「噛む」そして「唾液が出る」ことのほうがカリエスの予防にはより重要なのではないか?と解釈したい。

となると、「カリエスを予防するために、積極的にキシリトールを」と患者さんには薦めにくくなってきた。どっちかというと、「もっと噛んで唾液を出そう」のほうが本質を突いていると思う。

じゃあ、キシリトールっていったいどんな意味があるんだろう?
カリエス予防の王道は「歯磨き」「フッ化物」「食事のコントロール」である。この三つのファクターは実は密接に絡み合っていて、相乗効果を出している証拠もある。

これら3つの要素に決して「キシリトール」が入ることは決してない。カリエス予防に与えるインパクトのレベルが違うためである。

だから「カリエス予防のために、積極的にキシリトールを!」よりも「口に入れるならキシリトールを一とした糖アルコール製品を!そして噛んでたくさん唾液を出しましょう!」というスローガンのほうが適切ではないかと思う。

(週刊金曜日2006 大野純一著「歯生活を楽しくする歯科講座」より一部改変)

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